社会保険新報 平成26年7月号

社会保険新報2014年7月号表紙

2014年7月号

東京湾大華火祭
(中央区晴海)

コラム東西南北 知的刺激満載の本を出版しました!

『社会保険新報』編集委員長 真屋尚生(日本大学教授・商学博士)

経済学・経営学から行政学、老年学、農学、物理学、医学、文学、・・・哲学にまで及ぶ、広範多岐にわたる分野の15名の研究者と協力して、慶應義塾大学出版会から392ページの知的刺激満載の学術啓蒙書『社会保護政策論―グローバル健康福祉社会への政策提言』(以下、本書)を、私が編者となり、先ごろ出版しました。その視座と地平は以下のとおりです。本書をお読みいただけば、健康と福祉、そして社会保障・社会保険に対する認識が、コペルニクス的転回とまでは申しませんが、きっと劇的に変わるはずです。

* * *

「社会保護」は、日本における最広義の「社会保障」に近いが、それよりもはるかに広い概念で、人々の生活の安定に関連する諸問題を幅広く対象にした政策・制度です。なぜ社会保障ではなく、社会保護なのか。その背景には、政策課題としての生活問題が、地球規模で深刻化し、複雑化してきている、という事情があります。本書では、「地球規模の少子高齢化」を背景にした「社会保障の発展形態としての社会保護政策」登場の必然性を踏まえて、地球社会の一員としての日本からの、最貧国・発展途上国の過酷な現状をも視野に入れてのメッセージの発信を目指しました。

まず、私・真屋が、序論「社会保護体系の構築に向けて」で総論的な問題提起を試みた後、「第Ⅰ部 社会保護をめぐる思想的論点」の冒頭で、吉田達雄が、「公共経済における公共性と共同性」について論じ、完全な公共経済の分析のためには、公平や正義に関する公共経済運営の倫理的側面の検討が欠かせないことをわかりやすく論証します。続いて、竹内幸雄は、「社会福祉思想と"ニュー"と"ネオ"2つの新自由主義」の関係を取り上げ、グローバリゼーションの「隠された意図の結果」としてのインドにおける歴史的な悲劇の分析を通じて、現代の所得格差、失業、過労死、スラム化、児童労働、飢餓、貧困、戦乱、テロリズム、環境悪化、などにもつながる問題提起を行います。さらに、小阪隆秀は、「ポスト企業福祉社会の効率と公正」を対置し、成熟社会・日本は商品化できない価値やサービスを掬いとる互酬制や相互扶助の関係が組み込まれている新たな「豊かさ」を追求すべき、と説き、鈴木由紀子は、「『企業の社会的責任』概念の変容と拡張」をたどり、「公共性」「共同性」「自由主義」「効率」「公正」を基軸に、多様な集団が新たなコミュニティを形成し、「公」と「私」の間の「共」的機能を担う可能性を展望します。そして第Ⅰ部は、五十嵐眞・真屋・野村泰之が、「健康福祉社会と死生学」として、思想的・哲学的な視点をまじえて、先進医療と福祉医療をいかにバランスよく、ともに前進させるかが、21世紀における人類最高の「術(art)」になることを示唆して、しめくくります。

「第Ⅱ部 少子高齢時代の社会保護政策課題」では、塚田典子が、「プロダクティブ・エイジングの課題と展望」において、地球規模での社会保護政策が必要と論じ、私・真屋は、「社会保障の原点とジェンダー・ギャップ」に論点を移し、地球規模で進行する少子高齢化がもたらす課題の解明と地球規模の福祉社会の構築に向けた問題提起を試みます。さらに、円居総一は、「少子高齢化の負の神話と経済成長戦略」において、基軸とすべき政策目標を定めた体系的な政策の推進が、少子高齢化の下で、社会保障制度の維持と豊かな社会を実現していくうえで不可欠であることを提示し、永山利和は、「国際労働力移動をめぐる制度的課題」として、経済社会全体における外国人人口移動、外国人労働移動に関する企業や社会がとる体系的政策の提示が、政府の責務である、と指摘して、第Ⅱ部を結びます。

そして最後に「第Ⅲ部 社会保護の視座と展望」では、高橋巌が、「農村地域社会におけるセーフティ・ネットとソーシャル・キャピタル」において、農協を核とした「食」と「生活」を通じてのセーフティ・ネット再構築の可能性を示唆し、森山幹夫は、「医療・福祉における国際協力と人材育成」において、社会保障の発展には国民の理解が一番重要であり、国際協力の視点が不可欠であることを強調します。続けて、髙久保豊は、「中国『儒法モデル』の経営管理」に注目し、日中間により円滑な経済関係を構築していくための鍵は、「社会心理の変化」に対する理解である、と説きます。さらに一転して、小島智恵子は、科学史の視点から、「科学技術リテラシーと原子力」において、日本の原子力教育の優位性を明らかにし、野村泰之が、「宇宙開発時代の医療・健康問題」の本質に迫り、「医療・医学の存在意義は、誰しものすぐ隣に居る病者を治すことが初義であり究極」であり、「自己満足的な発見物語の積み重ねも自然科学の発展に必要ではあるが、膨大な予算を投入する以上、納税者を納得させるだけの成果が求められる」と結びます。

これら各章の間に、世界的に著名なインドの社会活動家のアアバ・チャウダリによるアジアの視点からの3編、またスペイン文化史の専門家・中山直次による5編を含む13編の「コラム」が挟まれていて、問題提起の視野を広げ、奥行きを深めています。

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いかがでしょう。「夏休み」を利用しての頭のリフレッシュに、ぜひご一読ご活用ください。


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