社会保険新報 平成26年11月号

社会保険新報2014年11月号表紙

2014年11月号

国会議事堂
(千代田区永田町)

コラム東西南北 総理交代

編集委員 関野 豊

イラスト:東西南北

総理交代といっても、安倍首相のことではありません。我が家のことです。縁あって家内と結婚し、新たな家庭を築きました。社内結婚であり、また転勤族であったため、結婚と同時に家内は寿退社し、私の収入に依存する家庭経済となりました。

家庭とはいえ、すべてが平等ではなく各々が主導権を握る部分がありますが、私は大黒柱であることから、役職にたとえれば最終決定権をもつ総理大臣、また働いていることから労働大臣、お金を握っていることから大蔵大臣であり、家内は家庭内の健康に気を配る厚生大臣でした。当時、財務省は大蔵省の名称でしたし、厚生省と労働省は統合前でした。子どもができると、家内は教育を司る文部大臣の兼任になりました。

昭和50年代後半、会社での給与支払い方法が、それまでの現金支給から銀行振り込みに変わりました。後で振り返ると実は大変な変化なのですが、その時点ではそんなに認識がないことがあるものです。給与の支払い変更もその類ではないかと思います。従来は、現金で給与を受け取り家内に手交していたのが、口座振り込みに変更後は、銀行口座から引き出して同じく現金で手交することになっただけですから。

ところが、子どもの習い事が始まり、やれプールだのピアノだのとお金がかかるようになり、月例の現金給付では間に合わないことが多くなって、家内からのSOSで、そのたびごとにいちいちお昼休みに銀行に出向いてお金を引き出すことがあるようになりました。支払予定日に現金の引き出しを忘れたりすることがたびたびあったことから、キャッシュカードを家内に渡しました。

これが私の結婚人生で最大の失敗です。今まで生活費を威厳をもって現金で渡していたのが、逆に小遣いをもらうという、従来とは180度違う形になったのです。家内はその時点で一挙に総理大臣兼大蔵大臣兼文部大臣兼厚生大臣となり、私はただ働くだけの労働大臣に格下げとなり、ここで総理交代となったわけです。併せて給与以外の、たとえば年末調整や加入していた団体定期保険の配当などの隠れた収入(これが結構な収入でした)も、一挙にその配分権が私から家内に移ったのです。

最近のある保険会社が行っているサラリーマン川柳で、「仕分け人 妻に比べりゃ まだ甘い」の句がありましたが、まったく同感です。さらに父親が母親から小遣いをもらう姿を見て、子どもはどちらに家庭の主導権があると考えるでしょうか?

後で同僚から、キャッシュカードは2枚作成することができるし、また給与口座は2つに分けることができるとのアドバイスがあり、早速変更したのですが、もう後の祭りです。いったん傾いた流れは取り戻すことができませんでした。よく組織では人事権とお金を握っている部署が力をもっていますが、家庭も同じく一つの組織ですね。金を握るものが最後は笑うのです。


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