編集委員 桃原 忠治
この春、桜をたずねて、等々力不動と等々力渓谷を歩いてみました。
東急大井町線の等々力駅から環状八号線に向かって約10分のところに、等々力不動があります。今から800年ほど前に、興教(こうぎょう)大師の夢のお告げによって建立されたと伝えられています。本尊の不動明王は、役の行者の作といわれます。交通安全や学業など、さまざまな願いごとにご利益があるそうです。
境内からは、児童遊園などに植えられた200本もの桜が見下ろせます。私がたずねたときは、つぼみはまだ少し固いようでしたが、いくらかふくらみかけた枝先もあったのでしょうか、薄桃色の霞を引いたように見えました。お守りを売っている中年の女性が、「見頃は、例年ですと4月8日頃です」と話してくれました。
本堂横の石段を降りていくと、途中に小さな祠があり、ろうそくの炎の中に役の行者の像がありました。役の行者の諡名(おくりな)は、神変大菩薩といいます。
石段を降りると、右手に不動の滝があり、あたりに聞こえていた水音は、この滝だったのです。ひんやりとした冷気を漂わせて、春夏秋冬枯れることを知らない滝の水音が轟くところから、等々力という地名が起こったともいわれています。
霊水が谷沢川まで注ぎ、こんもりと木々が茂るこのあたりが等々力渓谷です。移りゆく季節の中で、都内とは思えない静けさを残し、訪れる人の心を慰めてくれます。茶店で野鳥の鳴き声と滝の音やせせらぎの輪唱を聴きながらいただく一服のお茶は、また格別です。
川の流れに桜の花びらが散り浮く頃は、若葉も萌え始めるでしょう。ここまで来たら、少し足を延ばして、多摩川に出てみるのもよいでしょう。心なごむ春の一日でした。