編集委員 安田 晋
「タバコは吸わないほうがいいぞ。百害あって一利なしだ。酒は多少たしなめるようにしたほうがいいぞ。人とのつきあいも深まるし、なにより酒は人生を明るくする」
高校を卒業するときの担任の先生からの贈る言葉です。ヘビースモーカーであった先生が、自戒を込めて話されたのかもしれません。
それに影響されたわけではありませんが、大学が新潟だったこともあり、日本酒好きになってしまいました。高校まで北海道で育った私は日本酒と縁が薄く、ビールはサッポロ、酒といえばニッカのウイスキーでした(もちろん飲酒はしていません)。今は北海道にも日本酒の造り酒屋があることは知っていますが、当時は父親がウイスキーばかり飲んでおり、「日本酒はへんに甘いだけで悪酔いする」というのが父親の口癖だったからです。
そんな私が大学に入って初めて飲んだ日本酒は、「鶴の友」という地酒でした。鶴の友は新潟大学五十嵐キャンパスから徒歩圏にある新潟市内野地区の造り酒屋の日本酒で、私が大学生だった1970年代は、鶴の友と書いた酒店の車が大学キャンパス内を当たり前のように走っていました。夜の自主ゼミは、鶴の友を湯飲み茶碗に入れて飲みながらやるのが伝統でした。この鶴の友を初めて飲んだとき、それまでもっていた「日本酒は甘くてべたつき感があり、悪酔いする」という先入観は崩れてしまいました。スッキリしていて飲みやすいのです。
今では当たり前になりましたが、戦後、醸造用糖類やアルコールを添加した三倍醸造の日本酒が主流だった時代から、現在のような淡麗辛口の日本酒が好まれる時代になったのは、1960年代だそうです。そのきっかけになったのは、雑誌『酒』の編集長であった佐々木久子氏が、新潟市石本酒造の地酒「越乃寒梅」を幻の酒として取り上げたことです。この越乃寒梅、今では首都圏の酒店にも置いてありますし、インターネットでも入手できますが、1970年代は入手困難な本当の"幻の酒"であり、仕入れられる酒店は限られていました。毎週月曜日に仲間数人で酒店に出向き(確か月曜日しか入荷しなかったと思います)、店主に頭を深々と下げても年に2〜3本しか分けてもらえなかったものでした。この越乃寒梅が入手できた日は、冷やで飲むのが自主ゼミ仲間の楽しみだったのです。
そういえば、冷やと冷酒を一緒くたにしている人がいますが、冷やとは常温のことで冷酒ではありません。日本酒の温度表現は、熱燗、ぬる燗、冷や(=常温)程度で話されることが多いのですが、細かく分けると表に示す10通りとなります。
個人的な意見ですが、越乃寒梅は花冷えから涼冷え、同じ新潟県上越市の銘酒「雪中梅」は冷やからぬる燗で飲むとおいしいです。酒のあては、越乃寒梅なら甘海老、雪中梅はブリ料理などが合うように思います。同じく新潟県村上市の「〆張鶴」にはサケ料理が合います。これらのあては、各々地元の名物です。やはり地酒は地の物と相性がいいように思います。
行きつけの店に入って、「おやじ、今日はちょっと寒いから日向燗で頼む」なんて会話を楽しみながら、相性のいいあてで地酒を飲むのが小さな幸せです。
名称 | 飲用温度 |
---|---|
飛び切り燗(とびきりかん) | 55度前後 |
熱燗(あつかん) | 50度前後 |
上燗(うえかん) | 45度前後 |
ぬる燗 | 40度前後 |
ひと肌燗 | 37度前後 |
日向燗(ひなたかん) | 33度前後 |
冷や | 常温 |
涼冷え(すずびえ) | 15度前後 |
花冷え(はなびえ) | 10度前後 |
雪冷え | 5度前後 |