社会保険新報 平成26年8月号

社会保険新報2014年8月号表紙

2014年8月号

父島
長崎展望台(小笠原村)

コラム東西南北 怖い話:「押せば命の泉湧く」じゃないの?

編集委員 小池 敏夫

先日、目にした新聞記事に、「政府は、2014年版の少子化社会対策白書と障害者白書、消費者白書を閣議決定した」との書き出しで、現代社会が抱えている幾つかの問題点と今後の課題が紹介されていた。その中で気になったのが、「消費者白書」。記事の一部を紹介すると、「インターネット通販のトラブルなどが増え、消費生活相談件数の総件数が約92万5千件となり、9年ぶりに増加。特に高齢者の相談件数が5年前と比べて62.8%増と急増。昨年の消費者トラブルは約1,010万件、支出総額は約6兆円。情報通信サービスに関する相談件数は2009年度に約2万4千件だったものが、2013年度は1.7倍の約4万件に増加…」。
 ふと、我が身を思う。最近、頭の先から足の先まで必要と思うものは、ほとんどネットで購入。年のせいか、人込みに出るのが煩わしい。パソコンの画面でカタログを閲覧し、そのまま発注。支払いは居ながらにしてクレジットカードで決済。便利じゃございませんか。一度この味を覚えると病みつきになります。初めの頃は、チェックの厳しいカミサンの目を盗んで購入に勤しんでいたものですが、最近では一家そろってネット通販ファミリー。さて、そろそろ本題に入りましょうか。

帰宅後自宅のパソコンのメーラーを立ち上げ、受信メールをチェックするのが日課。いろいろ要りもしないメールが山ほど。一括削除してしまえばよいものを、そこは貧乏性。「もしかすると重要なメールが来ているかも…」なんて、ありもしない期待を抱き、最低でも30件以上あるメールをつぶさにチェック。すると、「楽天市場」からの注文自動配信メールが5通も届いている。
 なんじゃこりゃ! 最近、「楽天市場」で物を買った覚えはない。メールを開いてみると5通とも同じ内容。書き出しは、「楽天ショップのご注文を受け付けました。注文に覚えのない方は本文をご確認のうえ、注文キャンセルを行ってください」。本文では、149,400円のシャープ3Dクアトロン液晶テレビアクオスを購入されたので、このままキャンセルをしないと商品が発送され、代金をお支払いいただくことになる。心当たりがなければ、ここ(キャンセル用URL)をクリック。と、さもそれらしい文面で、キャンセル用のURLをクリックさせようと、再三にわたり要求している。当然のことながら、身に覚えはない。記載されている金額が金額だけに不安を掻き立てられる。これは、何かの間違いだろうから至急キャンセルしなくては…と思い込ませ、キャンセルボタンへ誘導するのが、このメールの狙い。
 皆さんも心当たりはございませんか。「楽天市場」のサイトで調べたところ、まったく同一内容のメールが多数配信され、受信者から「楽天」に問い合わせが寄せられていることが判明。「楽天」では注意喚起を行っていた。こんなメールが、最近増加し続けている。いくつか事例を紹介しましょう。

(1)タイトル:(緊急連絡)「クレジット決済セキュリティコードが確認されました。お間違えがなければ決済完了となります」
本文:こちらのメールは、ネットショッピング等で「第三者のなりすましクレジット決済」を防ぐための「決済時のセキュリティコード入力後の自動配信メールです」。現在20万円の商品の決済にて、認証コードが確認されました。こちらの決済に身に覚えがない場合は、第三者によるなりすましクレジット決済の可能性がございますので、下記ボタンより認証を行ってくださいませ。放置しますと決済が行われ、お支払いすることとなりますので十分お気をつけください。決済確認および解除はコチラから。

(2)タイトル:(宅配便不在MAIL通知)「不在通知のご連絡です」
本文:お客様宛にお荷物のお届けに上がりましたがご不在のため、いったん持ち帰りました。受取期限が過ぎているため、WEB配送となります。配送物は下記よりご確認くださいませ。問い合わせNo.【32525522】を下記URL、お荷物問い合わせページ内よりご入力ください。

(3)タイトル:(緊急連絡)「全国銀行決済ネットワーク」
本文:全国銀行資金決済ネットワークの松村です。ご依頼主様より、貴方様が現在行われている送金をすべてこちらの全銀ネットが引き継ぎ、送金を行う【送金依頼】が届き、ご連絡した次第です。ご依頼主様からはSNSサイトのポイントを通じて貴方様と取引中と報告を受けておりますので、こちらで引き継ぎ、すべて「おまとめ」して高額送金を行います。……受取人様(貴方様)の本人確認を取りたくご連絡いたしました。……こちらのメールアドレスまでご返答ください。

 このほかにも、日本年金機構、アマゾン、日本銀行(担当:南)、日本郵便等々、よくもここまでと感動してしまうほど。これらを一纏めにして、「なりすましメール」(詐欺メール)と言います。実在する企業団体や個人の名を騙り、貴方を落し入れようとするメールです。
冷静になってメールの文面を見てください。あたかも貴方宛のメールのようですが、キチンと宛名が記載されていますか。メールアドレスだけではありませんか。差出人の連絡先、住所、代表者名は記載されていますか。何となく怪しげなメールアドレスやURLではありませんか。仮に、電話番号が記載されていても、携帯電話の番号ではありませんか。そもそも、このようなところからメールが届くように、貴方は登録などを行っていますか。実在する企業・団体では、登録のない人宛に個人情報や金銭を請求するメールを配信することはありません。ましてや、宛名を明記せず送るなど考えられますか。ここでもうひとつ許せないメールを紹介します。

タイトル:(緊急連絡)【病院より緊急連絡、自動配信メール】ご自身の身内の方が「交通事故」に遭い、命に関わる状況にあります。このメールは緊急連絡指定アドレスを登録されている身内の指定の方に、自動で配信されるメールとなっております。
本文:これより搬送先にて、緊急オペが開始されます。お手続きをスムーズに行い、認証サービスを事前に行うことで、病院の受付をスムーズにクリアし、案内が可能となっております。このサービスは、緊急の場合にクライアント様がご指定のアドレスに連絡してほしいと登録されているアドレスに関して送信されるものです。下記ボタンより事前受付を済ませてください。……一刻を争う状況にございますのでお急ぎください。

あきれて、開いた口が塞がらないとは、このことを言うんでしょうね。病院名も患者名も記載されていない。メールの配信事業者の名称さえも明記されていない。
 しかし、オレオレ詐欺と一緒で、人は誰しも心の片隅に少なからず不安や負い目を抱えているものです。そこにつけこむのが悪人。ゆめゆめだまされることのなきよう、細心の注意を怠らないことです。団塊の世代が高齢者の仲間入りをし、仕事に人生を見出していた世代がリタイアにより拠り所を失ったとき、世はまさにネット社会。ボケ防止と称して俄作りのネットサーファー。そんな貴方が狙い目です。わずかな老後の蓄えを、ふとしたきっかけで失う。要らぬトラブルに見舞われる。そんなことにならぬようご用心!
 さて、そろそろ纏めに入りましょうか。当然のことながら、「もしクリックしたらどうなるの」との問いには、このようにお答えいたしましょう。「貴方も、めでたく消費者白書の一端を担える」と。実のところ、私、クリックしたことがございません。賢明な人間なんです。聞くところによれば、クリックすると、金銭を要求されたり、個人情報を詐取されたり、ろくなことはないそうで、決して楽しい思いはできないそうです。
 そこで一句「不用意な そのクリックが 命取り」。昔は、「指圧の心は母心、押せば命の泉湧く」だったんですがね。


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