社会保険新報 平成29年4月号

社会保険新報2017年4月号表紙

2017年4月号

春の石神井公園(練馬区石神井台)

【コラム東西南北】西国分寺駅での出来事“よかったね”

編集委員 加藤 孝一

イラスト:東西南北

昨年の11月下旬、私は東京・立川市内で用事を済ませ、中央線の立川駅から自宅に最寄りの新秋津駅に向かうため、乗り換えの西国分寺駅の武蔵野線ホームで電車を待っていました。しばらくして電車が入ってきました。電車は武蔵野線ではたまにある東京駅行きでした。

乗客が降りるのを列の最後尾で待っていると、白い杖を持ったご婦人が男の子を伴ってというか、男の子がご婦人をサポートしながらホームに上がってきました。目が不自由らしいそのご婦人が、「この電車はどこ行きですか?」と私より2つ右手の乗車列で待っていた青年にたずねられました。青年が当然のように「東京行きですよ」と答えると、ご婦人は「あら、違うね。変だね」と男の子に話しかけています。男の子も困ったような顔をして、2人はもと来た方向に歩き出しました。

私は「チョット待てよ!? もしかして…」と思い、後を追いかけ、肩をトントンと叩いて、「この電車は武蔵野線の東京行きですよ。どちらに行かれるのですか?」とたずねてみました。「新秋津駅に行きたいのです」とご婦人。「ならば、この電車で大丈夫ですよ。私も新秋津駅で降りますから」。

発車のベルが鳴り終わり、電車の最後尾を見ると、車掌がこちらを見ています。手を振って合図をすると、待っていてくれて、ご婦人と男の子は無事に乗車できました。やはり、中央線の東京行きと勘違いされていたようです。「よかったネ」とご婦人が男の子に話しかけると、男の子も「ウン」とうなずいています。座っていた60歳くらいの女性が、「新秋津駅で降りますから」と席を譲ってくれました。

目の不自由なご婦人は、40歳代半ばくらいでしょうか、笑顔のやさしい、おだやかな話し方のお母さんです。男の子も、小学校4~5年生くらいでしょうか、お母さんと普通に話をしていて、この年頃にありがちなぞんざいな口の利き方や憎まれ口をきく風もない、やさしそうな子です。

青年が答えた「東京行きですよ」も間違ってはいませんが、思い込みの怖さもあります。西国分寺駅では、東京行きは中央線、武蔵野線は千葉方面行きという思い込みです。私も気をつけてはいますが、あらためて会話の難しさに気づかされました。

そしてもうひとつ、私のほかにもこの勘違いに気づいた人もいたのではないかと思いますが、この母子に声をかける人はいませんでした。私も一瞬躊躇しましたが、思い切って追いかけていきました。私は5歳のときに、母親を病気で亡くしています。仲のよい母子をみると、どうも特別な感情がわくようです。

ちょっとした勇気を出して、思い切って追いかけていったおかげで、改札口を出るまでの短い時間でしたが、仲のよい母子と交流でき、よい気分で過ごさせてもらいました。その夜のお酒は、いつもよりちょっと美味しかったかな!?


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